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0歳からの教育

赤ちゃんの泣き声を無視できないのは「うるさいから」ではない

Hard to Ignore

2021年12月08日(水)13時35分
ジョーダン・レイン(英サセックス大学研究員)

欲求や苦痛や危険を感じているとき、自分の声を届けるために赤ちゃんは必死 KALI9ーISTOCK

<泣き叫ぶ声に誰もが反応してしまうのは、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの濃度に関係しているが、無視するのが難しい本当の理由は「予測不可能性」にある>

飛行機に乗っている間、近くの席で泣きわめく赤ちゃんの声に、いつまで続くのかと途方に暮れたことはないだろうか?

あるいは、耳をつんざくようなわが子の泣き声が聞こえて、慌てて駆け付けたことは?

私たちのほとんどが、どこかでそんな経験をしているはず。だが、赤ちゃんの泣き声を無視することがこれほど難しい理由は何だろう。

まずは、泣くことと涙を区別することが重要だ。

「泣き叫ぶ」動物はたくさんいるが、涙点から感情的な滴を流すのは人間だけのようだ。ある程度成長した人間では、泣き声にしばしば涙が伴うが、涙は決して、泣き叫ぶことの必須条件ではない。

新生児は生まれてすぐに泣き始めるが、生後2~3カ月まで涙は出ない。また、新生児が泣くことは、私たちが学習によって身に付ける「感情的に泣く」こととは、進化上の起源が異なることも判明している。

「泣き叫ぶ」ことは、哺乳類に共通する原始的な行動であり、そのメカニズムは、進化の起源が古い「脳幹」に根差している。

ネズミ、ネコ、そしてヒトの赤ちゃんは皆、ずっと後になって進化した「前脳」がなくても泣き叫ぶことができると示されている。

実際、赤ちゃんの泣き声の音響構造や、泣くときの文脈は、ヒトを含む多くの哺乳類で非常によく似ている。

哺乳類の世界では、赤ちゃんが泣くのは主におなかがすいたとき、苦痛があるとき、孤立してしまったときだ。

では、なぜ泣くのだろう?

ほかの原始的な発声と同様、泣き声は、聞き手に特定の影響を与えるよう進化した。泣き声は、大人の脳のうち、注意力と共感力をつかさどる領域を特異的に活性化するという研究結果がいくつも発表されている。

つまり泣くことによって、とても効果的に養育者の注意を引き、触れ合いや安全、食事、快適さを与えてもらうよう仕向けられるということだ。

研究はまだ始まったばかりだが、こうした注意を引く行動において、神経化学的に大きな役割を担っているのが、「愛情ホルモン」と広く呼ばれ、社会的な絆を育む役割を果たすオキシトシンのようだ。

赤ちゃんが苦痛を感じると、その結果として、オキシトシン濃度が低下する。これが泣き声を誘発し、エスカレートさせると、科学研究は示唆している。

そして、こうした泣き声を母親が聞いたとき、母親自身のオキシトシンレベルが上がり、養育行動が促される。

父親と赤ちゃんの絆に関する研究は少ないが、オキシトシンが同様の役割を果たしていることが読み取れる。さらに泣き声は、男性ホルモンのテストステロン濃度を少し低下させ、共感的な男性の場合は養育行動が促される。

実際、オキシトシンは、泣き声に対する聞き手の脳の反応を増幅させ、適切な対応を取る可能性を高めているかもしれない。その結果として保護者が赤ちゃんに触れて、対処してやると、今度は赤ちゃんのオキシトシン分泌が刺激され、赤ちゃんが泣きやむという場合もある。

カオスな予測不可能性

私たちは、泣き叫ぶ声とほかの発声を区別できるが、文脈情報が伴わない場合、泣き声の「動機」を特定することはかなり苦手だ。

苦痛でわめく声、空腹の訴え、寂しいときの泣き叫び声には、はっきりした音響的な違いがないように感じられるためだろう。

ただし、苦痛の「レベル」については理解できる。緊急度が高いほど、声の高さと大きさが増し、声と声の間隔は短くなる。

さらに、音波のエネルギーは高周波に集中する。大人の聴覚にとって、最も敏感で、環境中における音の減衰が最も少ない周波数帯域だ。

これらの音響特性から、文化の違いを超えて、赤ちゃんが苦痛を感じていることを誰でも正確に把握できる。これが周囲の大人の素早い反応を促す。

ただ、赤ちゃんの泣き声を無視することが難しい本当の理由は、その泣き方の「予測不可能性」だ。

複数の研究によれば、赤ちゃんがとても苦痛を感じているとき、その泣き声は予測可能な音調から外れ始めるという。

「乱れ」や「粗さ」などとも表現されるこうしたカオス状態では、ランダムな周波数で耳障りな音質になる。声が2つの音程を持ったり、音程の変化が大きくなったりすることもある。これらの特性は、限界に達したことの表れだ。

こうした音声パターンは、ほかのシグナルと明確に異なるため、危険を素早く察知するために不可欠な脳の部位に働き掛け、より速く正確に音源を特定することにつながる。

予測が不可能なことによって、聞き手が泣き声に慣れたり、泣き声を無視したりするのが難しくなることも示されている。

穏やかな音色のような泣き声を聞いているときと、カオスのような泣き声では、どちらのほうが眠りに就きやすいだろう? ひどい苦痛を感じているときや、重大な危険にさらされているとき、赤ちゃんは自分の声を届けるために全力を尽くすのだ。

赤ちゃんの泣き声には、そんな秘密が隠されている。

わが子が助けを求める素晴らしい泣き声を次に聞いたときには、それがどのように自分の脳に突き刺さるのか、また、泣き声の不快感が生物の進化によってどれほど深く植え付けられているのか、もう少し理解できるのではないだろうか。

メカニズムを理解したところで、今日もまた襲ってくるわが子の泣き声を穏やかに受け止められるようになる......かどうかは、怪しいところだが。

The Conversation

Jordan Raine, PhD Researcher, Nature and Function of Human Nonverbal Vocalisations, University of Sussex

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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