コラム

ラジオを聴かない奴はなぜ馬鹿か

2021年06月30日(水)14時52分

2028年をめどに実施されるAMラジオ局のFM一本化は、リスナーにとっては「ラジオが聞けなくなるのではないか」という一抹の不安を与えよう。しかしFMの補完局であるワイドFMが普及した現在、2028年のFM一本化に於いても、従来のAM放送における聴取可能領域の人口カバー率90%以上を維持するとの報道も出ている。AMがFM一本に転換しても、聴取人口が激減するわけではないのだ。ここで一安心である。

しかしこれは、ワイドFMと言われる概ね90.0Mhzを超えたFM放送波を受信できるラジオ受信装置を持っている人が限定になっている目算である。よく古い自動車に乗って、オーディオの操作をすると、FM局の選定は90.0Mhzまでになっている。ワイドFMは90.0Mhzを越えた位置にあるので、旧い受信装置を温存している世代にとっては聴取の断絶を意味する。

現在、家電量販店等で売っているラジオはそのほとんどがワイドFM対応の受信機であるが、2021年現在その普及率は50%強といったところ。このままAM各局がFMに集約されると、その半分弱がワイドFM対応受信機への買い替えか、パソコンやスマホで聴く「radiko」での聴取を余儀なくされる。ワイドFMに対応した受信機のさらなる普及が、あと7年で喫緊の課題となっている状況である。

「踊ってみた」の何が面白いのか

全国47局のうち44局が2028年までにFMに移行する、という当世事情は、こういった技術的側面もさることながら、苦戦が続くAM民放各局の財政事情が複雑に絡んでくる。要するに皆、むかしよりラジオを聴かなくなったのだ。そのせいでラジオの聴取率が下がり、広告収入が減って、各局の財務状況を窮乏させているのである。

これは由々しき事態だ。ラジオ各局の報道番組を俯瞰するに、これ以上のクオリティは無いという現象は山のように散見される。もはや腐敗堕落して、毒にも薬にもならない、中身が何もない何の感想も記憶にも残らないどころか、知性教養もない当世芸人を出演させる「一部」テレビのコメンテーターが出演するワイドショーとは違って、ラジオにはまだ知性が残されている。鋭敏に触角を動かしているリスナーは、地上波を見限ってラジオに流入している。しかしそれでも全体像からすればラジオの苦戦は明白である。これは歯がゆい状況だ。

ラジオが無くなることは無い。災害時、唯一のインフラとして音声情報としてのラジオが担保されているから、ラジオ局が廃絶されることは無い。中長期的にみてラジオの未来は明るいと思う。しかし短期的にみれば、ラジオは前述したように毒にも薬にもならない芸人のワイドショーに押され、またこれも毒に薬にもならない「踊ってみた」とか「大食いチャレンジ」とか「ゲーム実況」「商品案内」のYouTuberに圧されている。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、堅調な企業決算に期待

ワールド

北朝鮮、潜水艦からのミサイル発射実験に成功=KCN

ワールド

バイデン氏と民主議員、週内に妥協も インフラ・歳出

ワールド

アフガン中銀準備金、タリバンにアクセス認めず=米財

MAGAZINE

特集:世界に学ぶ至高の文章術

2021年10月26日号(10/19発売)

ビジネスの現場でも「よい文書」は不可欠── 世界の共通するライティングの基礎とは

人気ランキング

  • 1

    銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

  • 2

    イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

  • 3

    岸田首相はDappi疑惑を放置して衆院選を戦うのか

  • 4

    ピアニスト辻󠄀井伸行さんインタビュー…

  • 5

    日本のコロナ感染者数の急減は「驚くべき成功例」─英…

  • 6

    韓国世論も日韓関係の悪化しか生まない「徴用工裁判…

  • 7

    中国の衛星が3月に軌道上で突然分解......その理由が…

  • 8

    「ワクチン反対」の投稿をきっぱりやめ、自身も接種…

  • 9

    このアイスが64円! 10期連続売上増シャトレーゼが「…

  • 10

    脱炭素シフトで世界の優等生ドイツが「国中大停電の危…

  • 1

    銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

  • 2

    なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

  • 3

    防犯カメラが捉えた「あわや」の瞬間 深夜帰宅の女性を狙う、猛スピードの男

  • 4

    モデルナ製ワクチンで重い副反応を経験した大江千里…

  • 5

    地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽…

  • 6

    中国進出の日本企業は、極めて苦しい立場に立たされ…

  • 7

    岸田首相はDappi疑惑を放置して衆院選を戦うのか

  • 8

    「ワクチン反対」の投稿をきっぱりやめ、自身も接種…

  • 9

    緑地、易居、花様年、当代置業......中国・恒大集団…

  • 10

    イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

  • 1

    薄すぎる生地で体が透ける! カイリー・ジェンナーの水着ブランドが炎上

  • 2

    中国バブルは崩壊する、だがそれは日本人が思うバブル崩壊ではない

  • 3

    イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

  • 4

    中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリ…

  • 5

    イチャモン韓国に、ジョークでやり返す

  • 6

    【独占インタビュー】マドン監督が語る大谷翔平「や…

  • 7

    銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

  • 8

    アイドルの中国進出が活発だったが、もう中国からは…

  • 9

    地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽…

  • 10

    なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中