コラム

菅政権の浮沈を左右する「40%の壁」とは?

2021年07月19日(月)22時10分

泣き面にハチだった「小山田騒動」

いずれもしても、ワクチンを普及させてコロナ禍を克服し五輪を成功させるという政権戦略に賭けた菅首相が現在、極めて厳しい状況に直面していることは間違いない。

7月12日に発令された4度目の緊急事態宣言の下では、飲食店における酒の提供規制を強化するために、金融機関の融資と酒卸の納入という両面から飲食店を「しめあげる」政策を打ち出そうとして、西村康稔経済再生担当大臣が批判を浴び、撤回を余儀なくされた。行政手続法が定める「行政指導」としてではなく、国民には唐突に「上から降ってきた」話であり、法的根拠がなく営業の自由を妨げる話だと理解された。怒りが噴き出したのは、コロナ禍で経営破綻に直面している飲食店、そこで働く人々の不安、外食もままならずストレスを抱えている国民に対して、感染拡大防止のために「なぜ酒類の提供を減らそうとするのか」という施策の因果関係が丁寧に説明されることがなかったからであろう。

菅政権が命運を託していた五輪については結局、競技の大半が無観客開催になり、アスリートやボランティア、チケットの抽選に当たって観戦を楽しみにしていた人々を含めて、多くの人を失望させた。7月14日に東京2020組織委員会が発表した開閉会式クリエーティブチームの作曲担当者の一人である小山田圭吾氏がかつて、「障害者(障碍者)いじめ」を雑誌のインタビューで語っていたことについても批判が殺到し、辞任に追い込まれた。7月23日のオリンピック開会式直前のドタバタであり、なぜこのタイミングで唐突に起用を発表したのか、開会式で流れる音楽をどのような気持ちで聞けばいいかという点で国民の間にシコリを残し、戸惑いが広がっている。

肝心のワクチン接種についても、一時は破竹の勢いだった接種にブレーキがかかった。大規模接種センターや各地の診療所・病院での地域接種のみならず、企業や大学における1000人超規模での職域接種についても接種計画の先送りを余儀なくされる例が目立っているが、ブレーキの原因と今後の見通しについて十分な説明がなされているとは言えず、やはり国民の間で不満が募っている。

そうした中、菅政権のワクチン接種政策でいま注目されているのが「40%」という数値だ。出典となったのは野村総合研究所が5月末に発表したレポート「ワクチン接種先行国における接種率および感染状況から見た今後の日本の見通し」で、イスラエル、イギリス、アメリカでのワクチン接種率(人口比)と新規感染者数の推移に関する統計データを分析した結果、「ワクチン1 回目接種率が4割前後に達したあたりから新規感染者数の減少傾向が明確になり、必要回数(主に 2 回)の接種率が 4 割前後に近づくにつれ、新規感染者数の抑制・低減傾向が強まった」とするものだ。

プロフィール

北島 純

社会情報⼤学院⼤学特任教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。国会議員政策秘書、駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在BERC(経営倫理実践研究センター)主任研究員を兼務。専⾨は戦略的パートナーシップ、情報戦略、コンプライアンス。著作に『解説 外国公務員贈賄罪』(中央経済社)、論文に「グローバル広報とポリティカル・コンプライアンス」(「社会情報研究」第2巻1号)などがある。
Twitter: @kitajimajun

ニュース速報

ビジネス

FRB議長に内部規定巡る厳しい質問、議会公聴会

ワールド

北海ブレント、3年ぶりに一時80ドル回復 利益確定

ビジネス

NY外為市場=ドル指数10カ月ぶり高値、米国債利回

ワールド

米議会、インフラ法案と歳出法案を可決すべき=バイデ

MAGAZINE

特集:ビジネスに役立つ NAVY SEALS 12のリーダー術

2021年10月 5日号(9/28発売)

米海軍特殊部隊の指揮官が戦場で学んだ部下と自分を危機から救う方法

人気ランキング

  • 1

    「4000冊の蔵書が一瞬で吹っ飛んだ」 電子書籍の落とし穴 ── あなたは購入していない

  • 2

    中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告

  • 3

    武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた

  • 4

    100年に1度の極端水位が今世紀末までに毎年発生する…

  • 5

    中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が…

  • 6

    アメリカから見ると自民党はめっちゃリベラルです

  • 7

    【ファクトチェック】肛門PCR検査は中国で義務付けら…

  • 8

    起業の成功に必要なもの...資金・コネ・知識・経験よ…

  • 9

    面白研究に下ネタ 科学の裾野を広げる「イグ・ノー…

  • 10

    男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという…

  • 1

    中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告

  • 2

    男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

  • 3

    イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

  • 4

    「4000冊の蔵書が一瞬で吹っ飛んだ」 電子書籍の落と…

  • 5

    武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実…

  • 6

    起業の成功に必要なもの...資金・コネ・知識・経験よ…

  • 7

    韓国の技術革新力が世界5位に──K ポップの活躍も要因…

  • 8

    サイを逆さ吊りにする実験結果がイグノーベル賞を受賞

  • 9

    感染は日本とアメリカが中心、すでに35カ国で確認さ…

  • 10

    犬のように人懐こい猫25種 飼い主に忠実な「相棒」…

  • 1

    「レオ様」激似の顔を持つ男...その数奇な運命と、たどり着いた境地

  • 2

    失敗学の研究者が見た、日本人の「ゼロリスク」信奉

  • 3

    タリバンがブラックホークを操縦する異常事態、しかも誰かぶら下がっている!

  • 4

    エヴァンゲリオン、美しく静かなラスト...ファンもこ…

  • 5

    無人島にたどり着いた日本人たちがたらふく味わった「…

  • 6

    動画サイトの視聴で広がる集団疾患、世界の若年層で…

  • 7

    330匹の猫が不審死...原因はペットフードか 重症猫…

  • 8

    インド、新たな変異株「デルタプラス」確認 感染力さ…

  • 9

    仲間や家族と一緒よりも「ソロキャンプ」が最高に楽し…

  • 10

    日本の元セクシー女優、フィリピンに遊びに行ったら…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中