最新記事

ハンガリー

少数派「いじめ」の強化で、権力にしがみつくハンガリーの「独裁者」

A Dangerous Farce

2021年7月22日(木)14時02分
ダニエル・ベアー(カーネギー国際平和財団上級研究員)
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相

オルバンは次なるマイノリティー批判の標的に性的少数者を選んだ BERNADETT SZABO-REUTERS

<「マイノリティーいじめ」でしかない反LGBTQ法導入は、来年の総選挙を前に窮地に追い込まれたオルバン首相による必死の延命策>

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は民主主義の旗を掲げて政界入りした。冷戦後の1990年代、彼はハンガリー政界の希望の星であり、共産主義から民主主義への移行を目指すこの国に支援の手を差し伸べた欧米諸国の寵児でもあった。

だが政権の座に就くや、ポピュリズムの手法に頼るようになった。熟議を重ねる民主的な統治に背を向け、数にものいわせて安易な路線に転換。権力の暴走を防ぐ制度や法律を次々に廃止した。

今の雲行きでは、彼は「腐敗したいじめっ子」として政界を去ることになりそうだ。末期段階のオルバン政治は、ハンガリー式ナショナリズムでも「擬似民主主義」でもない。ただの茶番だ。

オルバンとその協力者らは6月に議会で反LGBTQ(同性愛者などの性的少数者)法を成立させ、7月8日に施行した。同性愛やジェンダーの多様性について未成年者に伝えることを禁じるなど、ロシアの「同性愛宣伝禁止法」と似たような内容だ。

当然ながらウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長とドゥニャ・ミヤトビッチ欧州委員(人権担当)はこの法律を批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、ハンガリーはEUを去るべきだ、とまで指弾した。

オルバンはここ数年、イスラム教徒の難民や少数民族のロマに対する偏見や差別を政治的に利用してきた。憎悪をあおるポピュリズム的な手法を続けるために、新たな「大衆の敵」が必要になり、格好の標的としてLGBTQに目を付けたようだ。

ポピュリストは2つの理由でマイノリティーを標的にするが、この2つは連続する。つまり標的は同じでも、政治的な目的は進化するのだ。

公約を果たせないポピュリストの行方

まずは、大衆の支持をつかむため。ポピュリスト政治家はマイノリティーに対する恐怖心や嫌悪感をずけずけと口にして大衆の代弁者を気取る。ドナルド・トランプが2016年の米大統領選に出馬を表明したときにメキシコ移民を「強姦魔」や「犯罪者」呼ばわりしたのもそのためだ。

右であれ左であれ、大風呂敷を広げたポピュリストの指導者はいずれ公約を果たせなくなる。そのとき彼らは2つ目の理由でマイノリティーいじめに走る。大衆の不満を社会的弱者に向けて、姑息に政権を維持しようとするのだ。

つまり1つ目のマイノリティーいじめは権力基盤の強化のため、2つ目は危うくなった権力基盤にしがみつくため。ポピュリストの指導者は大衆の支持を失えば裸の王様だ。

民主主義の下では、どんな指導者も支持率を気にするが、ポピュリストの指導者は異常なまでに気にする。政治的信念も指導者の資質も欠いた彼らにとっては、大衆の支持のみが頼みの綱なのだ。

EUとNATOの加盟国でありながら、民主主義が後退しつつある──ハンガリーの危うさはそれだけではないし、それが主な危険要因でもない。

ニュース速報

ビジネス

アングル:欧米で広がる金融商品「バズらせ」戦略、標

ワールド

東京都、新たに4058人のコロナ感染者を確認 初の

ビジネス

アングル:コロナ再拡大に大洪水、世界の供給網「限界

ワールド

焦点:見直し迫られるバイデン氏のコロナ戦略、デルタ

MAGAZINE

特集:モデルナの秘密

2021年8月 3日号(7/27発売)

コロナワクチンを高速開発したベンチャー企業モデルナの正体とmRNA治療薬の可能性

人気ランキング

  • 1

    東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

  • 2

    いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

  • 3

    ドラァグクイーンと子供のふれあいイベントが抗議殺到で中止に、殺害予告も

  • 4

    福山雅治ほどの温厚な人を怒らせた「3つのスイッチ」とは

  • 5

    パリ五輪ロゴの出会い系アプリ激似説がネットで再燃

  • 6

    女子陸上短距離ジョイナーの「伝説と疑惑の世界記録…

  • 7

    今度は米西部でバッタが大発生、繰り返される厄災に…

  • 8

    1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だ…

  • 9

    「お尻がキラキラ光るクモ」ではなく、無数の赤ちゃ…

  • 10

    コーチもいないオーストリアの数学者が金メダル、自…

  • 1

    1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だった

  • 2

    東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

  • 3

    いくら太陽光発電所を作っても、日本の脱炭素政策が成功しない訳

  • 4

    「競技用ショーツが短すぎて不適切」英パラ代表選手…

  • 5

    チベットの溶ける氷河から、約1万5000年前の未知のウ…

  • 6

    競泳界の「鉄の女」が水の上を歩く奇跡の一枚

  • 7

    「無駄に性的」罰金覚悟でビキニ拒否のノルウェー女…

  • 8

    東京五輪は始まる前から失敗していた

  • 9

    東京五輪、視聴率苦戦の根本理由

  • 10

    地球帰還のベゾス氏、空気を読まない発言に怒りが集…

  • 1

    1匹だけみにくい子猫、病気と思ったら「オオカミ」だった

  • 2

    東京五輪、中国人バド選手が韓国ペアとの試合中に「罵倒」連発で騒動に

  • 3

    加害と向き合えない小山田圭吾君へ──二度と君の音楽は聴きません。元いじめられっ子からの手紙

  • 4

    20万円で売られた14歳日本人少女のその後 ──「中世に…

  • 5

    「無駄に性的」罰金覚悟でビキニ拒否のノルウェー女…

  • 6

    「1日2個、カットしてスプーンで食べるだけ」 メンタル…

  • 7

    「競技用ショーツが短すぎて不適切」英パラ代表選手…

  • 8

    人間のオモチャにされたイルカ死ぬ──野生動物に触る…

  • 9

    韓国で、日本製バイクの販売が伸びている理由

  • 10

    テスラ6月に発売した新型「モデルS」運転中に発火=所…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月