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カリフォルニア法廷だより

伊万里穂子|アメリカ

イチャモニスト

Erick1513-iStock

私の職場でのお客様は刑事課の時は犯罪者で、民事の今は大抵このイチャモニストです。

イチャモニストは何にでもイチャモンをつける人の事です。日本でもモンスターペアレンツ(モンペ)やモンスター患者とかクレーマーとか多くなってきているみたいですが、アメリカなんか発祥の地といってもいいと思いますからね、そういうの。

昔はお医者様や先生の仰る事には黙って、はいよろしくお願いします、と言ったものですが、今は患者様、の時代ですからね。情報がすぐに手に入るという事は社会にとっていい事ばかりでもないような気がします。情報が氾濫しているのを患者様が「だってネットではこういうのを見た」とか言い出すんですからね。昔はプロへの尊敬の念というものがあったと思うのです。今はスマホで情報がすぐに手に入るので、素人でもすぐプロ気取りなのです。

刑事課の案件でも陪審員で「テレビでは科学捜査班がこういう分析をしていた」とか言い出して、それはドラマの話だろ、そんなお金のかかる事やるわけないだろ実際に、と思うのはプロだけで、素人は「だってテレビで見たもん」や「ネットで読んだ」の一点張りですから、タチが悪いのです。

そしてイチャモニストでも特にタチが悪いのが、弁護士を雇わないで、自分で自分の弁護士役をする素人。もうね、弁護士気取りですよ。何でも難癖つけてなんぼ、っていう性格ですから、こういうタイプの人は。

私がずいぶん前についた裁判官が「そうですか、じゃああなたは特別な学校に通って特別な訓練を受けたボクサーと対等に戦えるというんですね、ボクシングをテレビで何回か見てルールは何となく知っている、という程度で」

とイチャモニストに説教をしていましたが、イチャモニストはそんな事は気にしません。なにせ彼らはLawLibrary に足を運んでいっぱしに読み齧った事を法廷で披露したくて仕方がないのですから。

難癖つけてなんぼのイチャモニストにとって裁判所は甲子園のようなものです。この晴れの日のために今まで頑張って苦労してきた。ラスボスといよいよ戦ってギャフンと言わすんだ、「訴えてやる!」という捨て台詞が口癖のイチャモニストにとって裁判所は夢の晴れ舞台です。

そんな扱いにくい人ばかりがお客様なのに最初の頃は困っていましたが、この頃はイチャモニストの扱いにも慣れてきました。

正面から向き合ってもややこしい事をいって係を困らせる事を好むこのタイプの人には無駄な労力なので、こういうイチャモニストが束になってくる法廷では柔道の受け身のようなスルーをするかわし方をするようにしています。相手の言う事を否定もしなければ肯定もしない。とりあえず、ちょっとそこに座って待っていて下さい、程度の事しか言わない。

言った言わない、と後で揉めるのが嫌なので、言葉尻を捉えて議論したがるイチャモニストはスルーするしかないのです。ここはプロの裁判官にギャフンと言わせてもらうしかないので、とりあえず座らせてラスボスの裁判官を連れてくる、これに限ります。プロの弁護士でも口答えできない裁判官に引導を渡されたら、イチャモニストもおとなしくなるのです。(実際は弁護士でも無意味に無駄足掻きをして口答えをして心証だけ悪くするという事が毎日起こりますが、そういう事をするのは頭の悪い弁護士だけです。プロは黙って後で控訴するだけです。その場で裁判官の判断が間違ってると声を荒げた所で心証を悪くするだけです。)

この仕事をして、イチャモニストがお客様で学んだ事。人生には戦わない、真っ向から向き合わない、という選択肢もある、という事。

いかに上手く身をこなして相手からのダメージを最小にとどめて受け流すかというのも人生学んでおいて損はない保守術だと思います。

 

Profile

著者プロフィール
伊万里穂子
大学中退後カリフォルニアに移住。海外で手堅い職業をと思い立ち公務員に。裁判所の書記官になる。勤続18年目たった一人の日本人書記官として奮闘中。ブログ「リフォルニア法廷毒舌日記で日々社会の縮図とも言える法廷内で繰り広げられる人間模様を観察中。著書:「お手本の国の嘘」新潮新書

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