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ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

歴史的な洪水がベルギーやドイツを襲う。待ったなしの気候危機

Credit:Zentangle

先週、ドイツ西部とベルギー東部を中心に大規模な洪水が襲い、甚大な被害となった様子は日本でも伝えられただろう。この洪水でベルギーでは31人が亡くなり、今だ50人以上が行方不明だ。9000世帯が家を失った。ドイツでの被害はもっと大きく死者133人と伝えられている。自然災害が少ない欧州西部で、1953年の北海洪水以来とも「100年にぶりの災害」とも言われている。

私が住んでいるのはベルギーのほぼ真ん中で、今までにない大雨が降ったが、浸水には至らなかった。被害がひどかったのは東部のリエージュ地域だ。豪雨、台風、地震といった自然災害が頻繁な日本は、歴史的な被害の経験から、防災の準備や心得が自治体、世帯、一人ひとりに浸透していると思う。ここでは、自分も含めて危機感が希薄だった。世界中で起きている洪水をどこか遠くで起きている大変なことと、ベルギーの多くの人が思っていたと思う。

事実、私も災害に備えた準備は何もない。家には食料や必需品の備えもなく、ハザードマップ的なものも見たことがない。地域の避難所も知らない!現地語に弱い外国人(私)はなおさら、リスク高だ。この度の未曾有の被害は、重要な警鐘となった。

熱波、豪雨、渇水...異常気象が引き起こす災害が世界各地で頻発しており、今までも気候変動との関係が指摘されたり、議論されたり、否定されたりしてきた。カナダのブリティッシュコロンビア州の記録的な熱波で47.5度が観測され、ここ数年は北米、オーストラリアでの山火事の勢いは増すばかりだ。

私は環境主義者で、25年以上前の大学生のときには気候変動の活動家だった。なので四半世紀、気候変動問題を危惧してきたが、これまでにないほどの切迫感を感じる。これから何十年も生きるZ世代が「サバイバルの危機」を直感して立ち上がるのは必然だ。化石燃料産業が巨額を投じて作ってきた温暖化懐疑論や否定論もあり、すでに貴重な数十年を私たちは失っている。国連の気候科学者 (IPCC)2018年のレポートの一節が日々現実に近づいていると感じる。

2030年までに社会・経済の劇的な変化を起こせなかった場合、頻繁な熱波とそれ以外の異常気象で、平均寿命が短くなり、野外の仕事の効率性は下がり、多くの地域で生活の質は低下する。干ばつと水不足は多くの地域で農業を立ち行かなくする。貧困と紛争は劇的に増える。生物種の喪失や山火事の頻発で、ほとんどの生態系は回復不可能なレベルまで破壊され、結果として自然が提供している多様な機能を失う。貧困と生活の質の低下で2100年の世界は今からは考えられないほど違っている。」

気候上昇を1.5度に抑えることでこのような危機を回避しなければならないのだが、温暖化効果ガスを劇的に削減したとしてもその影響が表れるのに長い時間がかかる。気候を安定化させるためには、2030年までに温暖化効果ガスを45%削減しなくてはならないと科学者は警告している。あとたった8年半しかないカウントダウン状態に私たちは生きている。

また、ベルギーでの水害の被害が深刻化した理由の一つに、災害からの市民を防衛する行政の縮小が背景にあると、被害が大きかったワロン地域の社会党の政治家は批判をしている。2017年、当時の与党は全国に6つあった災害救助の専門的な機構をたった2つに縮小したのだ。救助にあたって、市民防衛機構も軍隊も救助のための適切な装備が十分ではなかったために、救助が遅れたとの指摘もある。緊縮財政下で、環境や命を守る社会的コストは「節約」される。同政権は、20203月に新型コロナウイルス感染症が広がったときに、備えがあるべきマスクがなかったことでも批判された。

71415日に豪雨が襲う中、折しも欧州委員会はヨーロッパ・グリーンディール(EGN)を実行する 'Fit for 55' 気候政策パッケージを発表した。この名前は、2030年までに55%の温室効果ガスを削減するというEGNの目標から来ている。目玉政策の一つは、2035年までに、ハイブリッドを含む、ガソリン、ディーゼル車の販売を禁止する提案。欧州委員会フォン・デア・ライエン委員長は進行中の異常気象に触れて、「私たちの現在の化石燃料経済は限界に達した」と演説した。

たった8年半で温暖化ガスの排出を半減以上させるために、相当なことをしなくてはならないとEUの政治家は総論では合意している。しかしこの度も 'Fit for 55' が出た際になんと3分の一の大臣(EU加盟27カ国はそれぞれがひとつづつ大臣ポスト(コミッショナー)を担当する)が、懸念や難色を示したと伝えられている。トップの政治家は、これだけ大規模な災害で町が流され、甚大な被害が出ても気候変動を直視せず、目先の経済や既得権益を優先している。

そして日本では、緊急事態下でオリンピックが開幕しようとしている。オリンピック予算は最初の7340億円から膨れ上がって、今や3兆円とも4兆円に近いとも言われている。国内外からのあらゆる批判を受け止めることなく、とうとうここまで来てしまった東京五輪。日本政府の並大抵ではないオリンピックへの固執と情熱を、気候変動対策、感染症対策、ジェンダー平等、コロナ禍で困窮する世帯や事業者の救済にこそ発揮してほしかった。

環境が破壊された、グローバルな社会で、今後、感染症や異常気象、災害のリスクは減ることはなく増える一方だろう。だからこそ、本当の無駄を見極めて、命と環境を守る政治と経済に本気で移行しなくてはいけないと思う。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

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