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ラッシャー貴子|イギリス

バースの街で紳士淑女の社交を追体験、ジェイン・オースティン・フェスティバル

 初めてのジェイン・オースティン・フェスティバルは、想像以上に楽しかった。ただ、少し気になっていることがある。オースティンはバースの華麗な社交生活を作品のモチーフには使ったけれど、実は本人はそれを楽しんではいなかったのだ。中流家庭の娘だったオースティンは経済的にもじゅうぶんには恵まれていなかったし、裕福な伴侶を見つけることだけに気を取られて本も読まず分別も身につけない娘たちを冷ややかに見ていた。女性は裕福な家に嫁ぐことが何より大事だった時代に、この考え方はかなり珍しく、この考えは彼女の小説にも貫かれている。それがあるからこそ、オースティンの小説には単純なおとぎ話で終わらない魅力があるのだ。

 ではオースティンは、19世紀の優雅な暮らしを再現するこのフェスティバルを見て渋い顔をするだろうか、と考えてみる。そんなことはない、とわたしは思いたい。参加者は年に一度のこのお祭りのために、ほぼ一年がかりで衣装を準備して、日程をやりくりして世界中からやってくる。召使いになんでもやらせていた時代とは違って、自分で知恵をしぼって体を動かしているのだ。人間を鋭く観察し、ユーモアの精神もあったオースティンは、たまのお遊びの楽しさを解さないほど堅物ではなかったと思うのだけれど。

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バースの駅で、馬車ではなく電車を待つレディーと将校。この衣装のまま電車に乗るというのも英国らしい。ご本人たちも平気な顔をしているし、周りも温かく見守るだけで特に何も言わない。言ったとしてもたわいないジョークぐらいかな。筆者撮影

 最後にオースティンのおすすめ作品を少し。小説は基本的に6作品と少ないが、日本では翻訳が何種類も出ているし、英国の国営放送BBCはすべてをテレビドラマ化している。どの小説も好きだけれど、いちばん有名なのは、5人娘を持つ中流家庭を取り巻く人間模様を描いた『高慢と偏見』だろう(「高慢」の部分を「自負」「プライド」と訳すものもあり)。数多くの映画やドラマがあるが、おすすめはBBC制作のテレビドラマ版(1995年)。とっつきにくいが肝心な時に頼りになるお金持ちのヒーロー役、ミスター・ダーシーを演じたコリン・ファースの出世作で、今では「ダーシーといえばコリン・ファース」というほどイメージが定着し、オースティン・センターでも、「ミスター・ダーシー」の肖像画はファースの顔になっている。

『高慢と偏見』にはオマージュやパロディー作品が多く、小説も映画も大ヒットした『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズもそのひとつ。現代に生きるブリジットが出会うのは「ミスター・ダーシー」、映画での配役はコリン・ファースだ。他にも英国ミステリの大御所P.D.ジェイムズが後日談を殺人に絡めて語る『高慢と偏見、そして殺人』や、ティム・バートン監督で映画化された『高慢と偏見とゾンビ』など、有名なものだけでも次々に名前が挙がる。

『分別と多感』も大好きな小説だ。映画版(邦題『いつか晴れた日』1995年)ではエマ・トンプソンとケイト・ウィンスレットが気質の異なる姉妹を演じ、脚本を担当したトンプソンはアカデミー賞脚本賞を受賞している。『タイタニック』出演前のウィンスレットは目が離せないほど初々しい。

 ユーモラスに描かれる『エマ』の映画は、グウィネス・パルトロウ主演版(1996年)と、ネットフリックスの『クイーンズ・ギャンビット』で注目を集めたアニャ・テイラー・ジョイ主演版(2020年)、どちらもいい。何度も観たパルトロウ版の方がなじみ深いけれど、色彩が鮮やかな2020年版は食べ物もおいしそうに映っていてモダンで新鮮。

 ジェイン・オースティン自身にご興味のある方には、オースティンの若き日を描いた伝記映画『ジェイン・オースティン 秘められた恋』(主演アン・ハサウェイ)もおすすめ。オースティン好きな女性たちを描いた『ジェイン・オースティンの読書会』は作家自身と直接関わりはないけれど、読みながらオースティンをずっと感じていられる大好きな本(映画もあり)。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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