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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

灼熱の夏と悪化するイラクの電気事情

イラクの郊外の風景 ©筆者撮影

イラクでは7月に入り、ここアルビルでも45℃近くまで上がり、南部バグダードでは50℃を超す猛暑が続いています。

この熱波については日本のメディアでも取り上げられており、日本でイラクのことがニュースになったと個人的に少し驚きました。

イラクではここ数週間、熱波と停電が断続的に続いており、6月の末には南部のムサンナー県、マイサン県、ディカール県、バスラ県の広範囲で長時間に渡り停電が発生しました。

今回は近年顕著になっているイラクの異常気象、そしてそれに伴いひっ迫する電力事情についてご紹介します。

 

異常気象が襲うイラクの夏  

古代メソポタミア文明発祥地でもある今日のイラクの夏は50℃を超える日も当たり前のようになり、数千年前の記述からは想像もつかないほどの乾燥と高温が襲う場所となっています。

今日もイラクの人々にとって大切な水源であるティグリス川とユーフラテス川の水も、上流に位置するトルコやイランの水需要を満たし水力発電所を稼働させるために年々水位が減っており、イラクの農作物や家畜に大きな打撃を与えています。

それに加え、雨量の減少も深刻になっています。イラクにとって農業はGDP全体の5%を占め、イラク全体で20%の雇用を生んでいますが、近年の干ばつと高温、数年に渡り雨が降らないといった異常気象が原因で農業が立ちいかなくなる地域も出てきています。

水不足は塩害も発生させ、それにより家畜が中毒状態になることもあります。畜産業を営む人たちは水を求めて年々住む場所を変えなければなりません。

水の絶対量の不足に加え、行政の機能不全や企業活動が原因による水質汚染も大きな問題です。

国連の推計によると、イラク全土の農地の内、灌漑システムが整っているものは全体の3.5%ほどに留まり、川の水位が下がっている以外にもごみ処理や工場排水の未処理、さらに石油精製所からの未処理の排水の影響などで水質汚染も深刻化しています。

2018年の干ばつの際には、南部バスラで未処理の排水が生活用水に混ざり、約10万人が病院に運ばれるという事態も起きています。

今日起きているイラクの異常気象は、行政の機能不全などと相まってイラク市民の生活に深刻な打撃を与えています。

  

イラクの劣悪な電力事情

OPEC(石油輸出国機構)加盟国の中ではサウジアラビアに次ぐ第2位、世界でもカナダに次ぐ第5位の産油国であるイラクですが、ここ数十年は度重なる戦乱や汚職、テロ攻撃などが原因で国民は貧困にあえぎ、インフラも慢性的に機能していません。

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イラクの油田地帯 © iStock

特に電力事情はひっ迫しており、発電、配電、送電設備といったインフラに加えてメンテナンスなど管理の部分でもイラクは大きな問題を抱えています。

またここ数ヵ月、過激派組織ISIS(イスラム国)が送電線を狙ったテロ攻撃を画策しており、先日、中部ディヤラ県の送電線付近でイラクの治安部隊と激しい戦闘が行われたばかりでした。

これらの理由もあり、イラクでは電気使用量が増す夏場は特に停電が頻発しており、最も気温が高くなる8月には最大で30ギガワットもの電気需要を満たす必要があります。

しかし現在、イラクの発電量は18.4ギガワットに留まっており、その内の1.2ギガワットは隣国イランからの輸入電力に頼っているという事情もあります。停電の原因の一つに、電力料金の滞納を理由にイランが送電を止めているという理由もあります。

イラク電気省の試算では今後、2030年までに電気需要は夏場で42ギガワットまで増えると見られており、早急な電力インフラの改善が求められています。

 

抗議デモも頻発

冒頭で書きました4県における大規模停電を受け、イラクのハントゥーシュ電力大臣は辞任を表明しましたが、その後もイラク各地で抗議デモが起きています。

特に夏場は60℃にも迫る高温地域で有名な南部バスラでは一日に6時間しか電力が届かない地域も存在し、政府は労働時間の短縮などの対策を掲げていますが、電気の安定供給と汚職の断罪を求めるデモは度々起きています。

また50℃を超す熱波が続く首都のバグダードでも、人々が氷を求めて日中長蛇の列を作る様子などが報道されており、生活状況の悪化が見られています。

 

原子力発電所の建設計画も進行中

深刻な電力不足にあえぐイラクでは現在、原子力発電所を建設する計画も出てきています。イラク原子力委員会の委員の話では、イラクは現在、ロシアと韓国の政府にアプローチをしながら400億ドル(約4兆4,000億円)をかけた建設計画が持ち上がっています。

イラクの主要財源である原油の需要が今後世界で減少していくと予想され、さらに湾岸諸国を中心として中東でも気候変動対策に力を入れようとする動きが生まれている現在、火力発電からの構造転換を図ろうとする動きがイラクでも起きています。

しかしこの記事でも紹介しました通り、イラクは長年の紛争と混乱、そして現在もテロ組織の活動が活発で、近隣諸国との地政学リスクもはらんでいます。こういったイラクの環境で原子力発電所の稼働が本当に安全なのか、疑問を呈する声もあがっています。

現在、20ヵ所の候補先が上がっていますが、原子力委員会の委員の話では数年の内に最初の建設計画が実行に移されるだろうとのことです。

異常気象、そして電力不足。イラクの抱える多くの、そして複雑な問題の二つを今日はご紹介しました。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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