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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

イラクを蝕む水不足問題

イラク・クルド自治区の川 ©筆者撮影

先週、イラク農業省が今年の冬(雨季)の農業収穫量が昨年比で最大50%減少するとの試算を発表をし、衝撃を与えています。

イラクでは昨年の雨季に例年より降水量が大幅に減少、40年ぶりの低水準となり今年の夏ではイラク各地で水不足が叫ばれていました。

国連環境計画(UNEP)のレポートによればイラクは世界で5番目に気候変動に対する脆弱性の高い国とされており、ここ数年の雨の減少、それによる生活用水や農業用水の減少は特に報道されることが多くなっています。

また今年の夏にはイラクとシリアで活動する国際NGO13団体が共同で声明を発表。70年ぶりとも言われる旱魃によりシリアで500万人が、そしてイラクでは700万人もの人たちが飲料水や農業用水、電気不足の影響を直接的に受けており、国際社会の早急な支援を求めました。

今回はイラクの水不足がそこに暮らす人々に与える影響について、またこの喫緊の課題に何か対策があるのかを考えたいと思います。

   

水不足とイラク市民の生活

古代メソポタミア文明の勃興した地であるイラクは、ユーフラテス川とチグリス川という二つの大河に挟まれた世界でも有数の水が豊富にある場所でした。実際、現在も南部の湿原地帯では広く農業が行われています。しかしその豊富な水資源も、灌漑や水力発電のためのダム建設(これは上流にあるトルコの開発の影響も)で大きく減少。現在では気候変動による降水量の減少も加わり、イラクでは全土で夏場の深刻な水不足が毎年のように起きています。

トルコ東部を源流となるチグリス・ユーフラテス川では今年の夏、下流に位置するイラク国内での水位が50%減少。その影響でクルド自治区にあり水力発電にも利用されるダム湖の水位が建設から65年で最低となったという報道もありました。

これは人々の生活用水にも影響を与え、私の暮らしているエルビル市内でも今年は度々断水が起きました。ユニセフが今夏出したレポートによれば、イラクの半数以上の学校で安全な水へのアクセスがなくなっていると警鐘をならしています。

特に最近までの過激派組織ISIS(イスラム国)との戦闘で荒廃した地域は一番影響を受けており、特に戦闘が激しかった中西部のニナワ平野では、インフラの破壊と水不足、また役人による海外からの援助金の横領なども重なり、農業地帯で以前の風景は消えてしまいました。生活のできない農民たちは土地を放棄し、避難民として都市に移住をしています。

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ニナワ平原の畑。川に近い地域ではまだ畑が広がっている ©筆者撮影

またノルウェーの支援団体の調査結果を報じた記事によれば、自然からの生活用水の減少によりイラク市民は輸入された水を買わねばならず、月額で80米ドルもの支出増に繋がっているとされています。

気候変動、環境破壊とインフラの復旧が進まない現状により、イラク市民の生活がさらに苦しいものになっていることが見て取れます。

  

対策はあるのか?

今夏の水不足に対して、私の住むエルビル県などでは追加予算がとられ、急ピッチで井戸を掘り、生活用水として分配するために多数の水処理施設が建設されました。

これはイラクの各県だけでなく、国家全体の問題であるため、原油の分配をめぐり対立することの多いイラク中央政府と上流に位置するクルド自治政府はある程度足並みを揃えてこの問題に取り組んでいると言えます。特にさらに上流に位置するトルコへの交渉は協力して行っており、今年の夏にはトルコと、イラクへの安定した水量の放出を約束する協定を結ぶことに成功しました。

大きく気候変動への対策という点を言えば、イラクも2015年のパリ協定は批准をしており、それに基づいた二酸化炭素排出量削減にも取り組んでいます。

しかしイラクは主要な二酸化炭素排出国ではないため、政府の主な政策としては排出量の削減よりも気候変動により影響を受ける地域への支援を優先しています。

またイラクは世界で最も降水量の少ない国の一つですが、それを逆手にとれば、一年中ほとんど太陽が照っているということにもなります。太陽光発電所の拡大はイラク政府の間でも議論が重ねられており、イラクの国民議会ではある議員グループが2030年までに20ギガワットの発電をすることを明記した法律の制定を目指しています。

実際、モロッコではすでに2018年、国内のエネルギー需要を満たすための太陽光発電所増設のために大規模なインフラ投資法案を可決しており、パリ協定の国家別の目標値を達成する見込みとなっています。こういったイニシアチブを参考に、イラクでも喫緊の課題である水不足や電力不足といった課題にゆっくりながらも取り組んでいます。

しかし気候変動問題はイラク一国だけで解決できる問題では決してありません。先にも書いたように、イラクは主要な二酸化炭素排出国ではないのに気候変動の影響を最も受ける国の一つとなっています。

昨年、英国のシンクタンクが発表したレポートによれば、2050年までに世界で12億もの人が気候変動とそれに伴う住環境の破壊で移住を強いられると予測がされています。イラクはその影響を真っ先に受ける国の一つでしょう。

気候変動対策が待ったなしのものであるということをイラクに暮らしていると身をもって感じます。世界全体での協調と対策が早急に求められています。

  

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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