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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

久しぶりの一時帰国と「コロナ・カルチャーショック」

©iStock - Bihlmayer Fotografie

緊急事態宣言の明けた10月、その初日に日本に帰国し久しぶりにまとまった時間を日本で過ごしました。

あえて一時帰国の時期を10月にしたのは台風の時期の9月を避ける意味もありましたが、期せずして緊急事態宣言も前日9月30日に終わり、タイミングとしては完璧なものとなりました。

昨年はずっとイラクで過ごしていたこともあり、日本の秋も久しぶりに堪能。

まだ半袖が必要な日々から長袖が欠かせない日に、季節外れの蝉の声から秋の虫に、地元の山も緑から冬に向けたお化粧直しが始まり、日本の四季の移り変わりに心躍る日々でした。

次回はまた初春に一時帰国できそうですので、今度は春の訪れを楽しみにしたいと思います。

  

「コロナ・カルチャーショック」

昨年以来の一時帰国。今までは「電車への乗り方ってこれで大丈夫だったけ」といつも少々の逆カルチャーショックを日本で受けていました。電車のない(なんなら公共のバスもほとんどない)イラクで数ヵ月でも過ごしていると、公共インフラの発展した日本に帰った際のあたふた具合には自分自身でも苦笑しています。

またイラクではクレジットカードすらほとんど使えないので日頃いつも現金オンリーの生活なのですが、日本に戻ると現金は5,000円札を予備に一枚だけ入れほぼキャッシュレス生活。恐らく自分でも無理やり生活スタイルを変えているのですが、このテクノロジーへの再適応力の高さには自分でも驚いています。

そんな逆カルチャーショック体験を経て毎回日本に再適応しているのですが、今回一番大変だったのは「コロナ・カルチャーショック」という自分の中における新種の出現への対応でした。

一時帰国中、人口1,400万人近い東京の感染者数が1桁にまで落ちる日もありました。ですが電車内だけに留まらず、東京の端、いわゆる「田舎」にカウントされる私の地元でもみんなマスクをして外出しています。ちょっと人気のある駅前に出ればマスクを着用していない人を探すのが「ウォーリーを探せ」くらいの高難易度になっています。

それとは対照的に、イラクでは今年の春に一時1万人を超える感染者を数える日々がありましたが、結局人々が街中でマスクをしている姿を見ることはほぼありませんでした。(ちなみに大型商業施設など、人々にマスク着用を強制している場所はちゃんとあります)

イラクで過ごす中で、また私自身もワクチン接種が済んでいたということもあり、自然とイラク社会に引っ張られる形でマスクを外すことが自明のこととなっています。気を付けないととは思いつつ、周りがやっていないと引きずられてしまうあたり、私も日本人なのかなーと思ってしまいます。

このような事情もあり、日本で過ごした一ヵ月半の内でマスクを着けるのを忘れ電車に乗りかけたことが数回。気が付けばバッグに二枚はマスクを常備するにまでなっていました。

一時帰国中に会った友人ともこの話題なりましたが、本人もこの「公共の場所ではどこでも絶対にマスクをしなければならない」という見えないプレッシャーに対して変な気持ち悪さを感じていると話してくれました。

イラクでは2020年の8月に大規模なロックダウンが明けてから厳しい移動規制などが取られたことはほとんどありませんでした。しかし罰金を含めたマスク着用義務などは今日までも存在し、実際昨年の終わりまでは「車内でマスクをしていなかった」という理由で罰金を取られた人も一定数いたと聞いています。これは車のナンバーだけを記録しておけば後で罰金を請求できるという利点があったからです。

またレストランなども感染対策を怠ったとして閉店の強制措置を受けたところもありました。

しかしそれも2021年に入ってからは取り締まりも緩くなり、ついに今ではマスク着用をしている人を探す方が難しくなっています。

事実、私が暮らす北部のアルビル県(人口約300万人)では今でも毎日500名弱の新しい感染者が記録されており、「コロナ禍は終わった」とは数字を見る限りは到底言うことができません。しかし実際に街中を見ると、イラクでは「withコロナ」の時代を早々に通り越していつの間にか「ポストコロナ」の時代に入っていました。

政府がいくら罰金などの措置を講じいても、取り締まりが緩くなったと市民が察すると途端に破る人が続出。いとも簡単に規制が有名無実化されます。

イラクの人たちは政府への期待も信頼もありません。未だに新型コロナウイルスに対する懐疑論も根強いという背景も相まって、政府の新型コロナウイルスへの対策措置はほとんど意味のないものになっています。

それでも爆発的大流行が起き、市民生活が崩壊するといったことは幸運にも起きていません。こっちの友人の一人は「昨年の段階ですでに大多数の人が感染し、免疫を持っているのでは」と話してくれました。イラクは年齢の中央値が21歳と、圧倒的に若い国と言えます。なので感染しても無症状、または軽症のみで済んだ人が多数いたのではとも言われています。

何はともあれ、政府が出した防疫措置を市民が実践しないことで覆していくイラク。そして誰も規制していないのに何となくマスクを着けないと居心地が悪くなる日本。

このマスクなど、新型コロナウイルス対策を巡り何となく対極にある二つの文化に、それらを往復して生活している身としては今まで以上に異文化適応能力が試されている気がしています。

最後にひとつ断っておきたいのは、このコロナに対する国民の受け止め方の違いを「どっちが良くてどっちが悪い」という善悪論に昇華しようという意図はありません(もちろん人気のある場所でマスクはするに越したことはないのですが)。二つのコロナ文化にまたがって暮らす一個人の「比較文化感想」とでも考えてもらえれば幸いです。

  

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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