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パスタな国の人々

宮本さやか|イタリア

トリノ五輪で私が見たIOC金権体質は東京五輪の今、さらにパワーアップされ日本を襲う。

ところで私は2006年トリノで開催された冬季オリンピックの時、共同通信社で臨時スタッフとして働いた。現地在住でイタリア語を扱うライターということで、半分は通訳&お世話係のおばさん、半分は記者手伝い、のような立場だったから、開会式閉会式はもちろん、記者会見や取材にもあちこち行くことができ、いろいろな体験をさせてもらった。そんなある時、実際に目にしたIOCのひどい実情は今でも忘れられない。

開催前のある日の記者会見で、トリノ市内のあるバールの店主が、店名を「バール・オリンピック」としていたこと、そして五輪マークを勝手に店のガラス窓に描いたとして登録商標違反で罰金を科せられたのだ。

オリンピック会場からほど近い、つまり街中からは少しはずれにある、その地味なバールの店主は、偽五輪マークを使って儲けようという意図はなかった。ただ単純にオリンピックを盛り上げ、応援しようと、開催の3年も前に店の名前を「バール・オリンピック」と変え、ガラス窓に手書きで五輪マークを掲げた。店名はトリノ市から許可も得ていた。

IOCは、五輪マークを商標として保護したいのなら、地元に公式ガジェットやポスターを無料配布ぐらいすべきじゃなかったのか。そんなこともしないでおいて、善意の店主に高額な罰金を課すとは悪質だ!と大きな記事になるかと思いきや、地元の新聞が小さな記事を載せて終わってしまった。これもやはり、五輪の巨大な権力金力が裏で蠢いていたに違いないと勘ぐらずにはいられない。

しかも、もしもこの店主に、多少儲けたいという意図があったとして、何が悪いんだろう? 観光客が増え地元商店主の収入増につながるのは、開催の大きな意味の一つだ。偽グッズを売って儲けようというのとは、ワケが違う。

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ミコノス島のおみやげ物屋で売られている古代オリンピックをモチーフにしたマグネット。こういうのはどうなんだろう? (写真:i Stock/Moonstone Images)

なのに店主には2000ユーロ(日本円にして約26万円ほど)もの罰金が課せられた。トリノ五輪開催1年前の2005年に「トリノ五輪開催を控え、五輪のシンボルを保護するため」制定された法律により、無断で五輪マークなどを使用した場合の罰金は最高10万ユーロ(日本円で1300万円ほど!)、60日以内に収めれば2000ユーロに割引と定められていたのだ。

罰金刑になったのは件のバールだけでなく、トリノ市内で10件ほどのケースが起きた。あるピッツェリアでは「TORINO 2006」というメニューを作っていたが、それもダメ。「Olimpic」という名前で80年間営業してきた、つまりトリノ・オリンピック開催が決まるよりずっと以前から存在していた老舗高級ブティックも、看板を下ろさせられ「その費用は罰金よりも高額だった」ということだった。

さて、前述の記事の中で、宮本亜門さんはこう言っている。

(五輪)憲章では、IOCは模範となって、いかなる種類の差別を受けることなく、権利及び自由を享受されなければならないとあります。でも現実は、開催地の国民の意見を聞かないだけではなく、科学者や医療関係者の意見にも耳を傾けず、利権と損得を軸に、強引に開催へと進める。菅首相やIOCの行動はどう考えてもおかしくないですか。どうしても五輪を実行するなら、単なる一つの「スポーツイベント」にして、五輪憲章を外してください。

傲慢なIOCの体質、そして黙ってそれに従い、8割もの国民が「嫌だ」「怖い」と言っているのを無視してオリンピック開催に突っ走った日本の政府は、もっともっと批判されてしかるべきじゃないだろうか。日本人は行儀が良すぎ、我慢しすぎ、もっと怒っていい。全ての人が健康な生活を送る権利が憲法で保障されているのだから。これがヨーロッパやアメリカで起きていたら、大暴動か革命が起きている。

私はトリノオリンピックに関わるまでは、オリンピックが大好きだった。睡眠不足になりながらテレビに齧り付いていたタイプだったから、素直に楽しむことができない今回のオリンピックは本当に残念だと思う。でも新型コロナのおかげでオリンピックとIOCの本当の姿が露呈した今、その存在自体を考え直すチャンスと捉えてみるのは悪くないのではないだろうか。

 

Profile

著者プロフィール
宮本さやか

1996年よりイタリア・トリノ在住フードライター・料理家。イタリアと日本の食を取り巻く情報や文化を、「普通の人」の視点から発信。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」でのコロナ現地ルポは大好評を博した。現在は同ブログにて「トリノよいとこ一度はおいで」など連載中。

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