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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

オランダの地方行政改革:縦割りと階級構造を手放す

(iStock - icyman)

縦割り、と言ったら行政。

縦割り行政、と言ったらたらい回し、非効率、組織の硬直化など、問題点が沢山連想される。

その縦割り構造をぶち壊した基礎自治体がある。

いや、河野大臣の行政改革の話ではない。

それは、オランダ中部に位置するErmelo(エㇽメロ)。首都アムステルダムから東へ50㎞弱ほどの場所にある、人口約2万7千人の自治体だ。ここの役場は数年前に階級型組織構造を手放し、網目型構造に変えたという。

なぜだろうか。

 

構造改革を促す圧力は、既に何年もの間存在した。

中央集権国家から地方分権促進の流れ、デジタル化、高まる住民の参政意識などなど。中心・トップとしての行政・役場ではなく、住民や他団体のパートナーとして、ネットワークの一部として、柔軟性のある組織が求められるようになった。従って2018年の5月に、網目型組織への改革が始まった。

具体的には何が変わったのか

まず、課・部という仕切りがなくなった。残ったのは「人」と「仕事」のみ

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(iStock - Dilok Klaisataporn)

地方公務員たちは、課・部で働くのではなく、特定のプロジェクトを行うために働くようになった。それぞれのプロジェクトにおいて、関わっている公務員の中からプロジェクトリーダーが選出される。だがリーダーはいわゆるボス(上司)ではなく、プロジェクトの進行や費やした時間・予算を確認する役目を果たす。そしてプロジェクトの達成に関しては、チームの一人一人の責任が問われる。

プロジェクトが終わればそのチームは解散となる。つまり、公務員らは一時的な(プロジェクトチームの一員という)役割を常に担っているということだ(そして複数の役割を持つこともあろう)。

 

さらに、同一労働同一賃金の考えが適応され、正規雇用・パートタイム・契約雇用などに関わらず、同じ待遇を得て同じ基準で成果を測られる。そこで働く一人一人が、自身のキャリアに責任を持つということらしい。階級組織ではないため、長く働いているから・上司だから、というような要素は給料水準にほぼ関係ないのだろう。

加えて、課・部がなくなった分、公務員の能力や経験とプロジェクトを組み合わせる「人的資源管理担当者」の重要性が増した。また、組織全体が取り組む必要のある「持続可能性」「組織開発」のような変化を後押しする役割を持つ人「ブースター」もいる。最終的な行政責任を負うのは「総責任者」。異なる分野の公務員同士や、公務員と政府をつないで方向を調整する「管理者」。階級と縦割りに基づいた組織にはあまり見かけない役職がある。

組織構造と文化 

このように、網目状の構造を持つ組織を「マトリックス組織」と呼ぶ。一般的な職能別組織に、それらをまたぐプロジェクト別組織を交差させたものだ。従って、二人以上の上司から指令を受けるようになる。Ermeloの役場で働く方とお話をしたが、上司という上司がいないため、質問があっても誰に聞きに行けばいいのかがわからないことがあるとか。それでも階級や課・部がない組織で働くのは、担当プロジェクトにより責任を感じるようになったり、経験や専門を問わずプロジェクトグループのメンバーが互いの意見を尊重する環境ができたりと、好ましい部分もあるという。

ここで組織構造についてもう少し詳しく説明しよう。

オランダ出身の組織論者・Fons Trompenaarsによると、国によって一般的にみられる組織構造は異なり、次の4種類に分けられるという。

家族:伝統的な家族像のように階級的で、かつ人や集団への忠誠心がみられる。上司に従うのは上司だから。

エッフェル塔:年齢などではなく、役割に基づいて階級が成り立っている。上司に従うのはそういう役割分担だから。

誘導ミサイル:NASAが誘導ミサイルに似た宇宙探査機を開発する際に、様々な分野の専門家を集めてチームを作ったことに由来するらしい。構成員の間に上下関係はなく、皆が同じゴールに向かって自分の役割を果たす。

インキュベーター(保育器):階級や役割分担は見られず、ただ自己表現と自己実現の場としての組織。構成員は互いに高め合う仲間。シリコンバレーが一つの例。

World Voice diagrams-Org structure.png

(Fons Trompenaarsの4つの組織文化の図を基に 筆者翻訳・作成)

誘導ミサイル型に当てはまるマトリックス組織は、エッフェル塔型の組織における縦割りの弊害を克服するのに有効な構造とされている。実際、オランダの組織はエッフェル塔型の傾向が強いらしい。

対して日本は家族型。年功序列・終身雇用・「空気を読む」などというザ・日本的な働き方がその象徴だと思う。

日本の組織が、特に行政などというガチガチに縦割りな組織が、マトリックス組織に構造変化するのには相当な努力を要するだろうし、成功するとも限らない。

どの組織形態が良い悪い、というのはないと思うし、それぞれの文化に合ったものがあるだろう。でも縦割りでありすぎる弊害はあるし、社会の変化に伴って日本の行政も変化していく必要性はあると思う。欧米化せよ、他国を完コピせよ、などとは言わないし、それは最適解ではないと思うが、他国の試みとその背景を考察するのは楽しい。

参考文献

Ermeloウェブサイト https://www.ermelo.nl/over-de-gemeente/vacatures
T
rompenaars & Hampden-Turner, 1997. Riding the waves of culture

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ。農業応用科学大学の4年生。卒業後は地元で百姓になり、楽しく優しい社会を、農を軸に築きたい!オランダで生活する中、感じていることをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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