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中国航海士・笈川幸司

笈川幸司|中国

第22回 中国の日本語教育は順風満帆?

この章のため、中国の大学で日本語を教えている中国人教師にインタビューを行い、その大学の現状と問題点を集めた。ただし、アンケート用紙を用意した訳ではなく、比率を出すこともできない。とりあえず、これまで自分がメディアの記者から受けてきた取材スタイルを取りながら、先生方にお話を伺ってみた。

とは言っても、私は記者ではないため、記事の書き方のイロハを知らず、着眼点も違う。話の構成もテンプレートを把握している訳ではないのでクオリティは保証できない。メリットといえば、伝えたいことありきの記事ではないため、メディアの記事と差別化がはかれる。一貫性のある話はしないということを予めご了承いただきたい。

では、はじめよう!

中国の大学で日本語学科が増えはじめたのは、2000年前後のことだ。主に、2001年以降、多くの理工系大学に日本語学科が設置されるようになった。当時はどの大学でも三年で日本語能力試験1級(以後、N1とする)を受験し、ほぼ全員が合格していたそうだ。地方から寝台列車に乗って試験会場のある大都市へ行くのが通例で、当日体調を崩し、実力が発揮できなかった不運な学生は、大学四年で再度N1試験を受けて合格していた。

さて、2021年現在はどうかといえば、卒業するまでにN1を受験する日本語学科の学生は以前の約半数。そして合格率は30%だそうだ。つまり日本語学科学生100名あたり合格者は15名。たとえギリギリで合格した学生でも、その大学の中ではエリート学生だと言えなくもない。つい10年ほど前までは、リクルートを中心に、日本で就職を希望する中国人学生を採用するイベントもあり、N1で満点を獲得した日本語レベルの高い学生も少なくなかった。そのようなイベントがなくなってしまったのは、中国の学生たちが日本に魅力を感じなくなったという理由以外に、N1試験に合格することもできず、コミュニケーション力を含めた日本語の総合力も足りず、日本の会社文化にも順応できそうにない学生がほとんどだからだとおっしゃる先生もいた。

それでも中国の大学を卒業後、日本に留学し、日本の大学院を卒業してから日本で就職するものも少なくない。同時に、日本の大学院を卒業してから、日本で就活をしたけれど、内定がもらえず、中国に帰国するものも少なくない。理由は、面接時にうまく話せず、コミュニケーション力がないと評価されてしまったからというものが多い。本当は、彼らに日本語トレーニングをして、日本で働いてもらいたい思いは強いが、日本では就活に失敗したけれど、中国ではすぐに職が見つかり、かえってよかった!と喜ぶ若者も少なくないことをここに記しておきたい。

実は、私自身も2017年、2018年の二年に渡り、日本での就職を希望する中国人学生の採用イベントにかかわらせていただいた。しかし、三年前の時点で、多くの日本語学科の学生たちの日本語力に致命的な問題があった。入門・初級で習得しておくべき基礎ができていなかったのだ。

それから三年の月日が流れ、途中、顔出しなしのオンライン授業で怠けてしまった若者たちの日本語力はさらに低下してしまったと嘆く教師も少なくない。ある先生がこうおっしゃった。「教師がいなくても成績の良い学生はどのクラスにも2、3人はいます。その学生だけがN1に合格し、他の学生は、日に日に日本語学習への情熱が冷めていきます。そして、教師のメンツを保たせてくれるのは、皮肉にも自分で勉強し、教師のいらない優秀学生たちの活躍です。大学の威厳を保つスピーチ大会も、教師がいなくても自分で頑張ることのできる学生しか参加しません。私に出会ってしまった多くの学生たちは、大学四年間日本語を学んだことを後悔しています」と。

「学生の成績が上がっても教師は評価されない」

大学教師は論文提出が義務化され、「どの雑誌にどんな論文が掲載されたか」で評価が変わるそうだ。しかしながら、雑誌に掲載されるのは、一流大学の教師ばかり。二流大学の先生方は日々プレッシャーに晒され、やる気を削がれ、授業に専念することもできないという。授業することに専念できないもう一つの理由は、学生の成績が上がっても教師は評価されないからだ。その結果、親に捨てられた子供のように、教師に相手にされなくなった学生たちが日本語学習にモチベーションを保つことができないのは、甘えん坊の00後世代(2000年以降に生まれた子供達)にとっては当たり前のこと。だから、中国における大学の日本語学科には未来はない」と断言する先生までいた。

しかしながら、この現実とは反対に、中国ではいま、空前の日本語ブームだ。大学受験のための外国語として日本語を選択する高校生は毎年数倍のペースで増え続けている。そのため、今はそれほど日本語レベルが高くなくても、大学で日本語を学んでさえいれば、高校教師という安定した職につきやすい。日本で日本の会社文化に順応できなくても、中国で、他人に自慢できるような仕事にありつける。空前の日本語ブームによって日本語学習者は激増し、日本語ビジネスも拡大している。このような状況は良くないとおっしゃる先生がいれば、これは大きなチャンスだとおっしゃる先生もいる。

感情的な人間になる演技がうまく、現実主義者の中国人。

理性的な人間を装うが、演技が下手で、理想主義者の日本人。

これは、私が尊敬する方の言葉だ。中身がないからうまくいかないだろうと考えてしまいがちだが、やりながら調整するのがうまい中国人なら、この状況をバッチリ改善して行くのだろう。数年後の予想はできないが、この難関を軽々乗り越えて行くであろう中国の方々からしっかり学びたい。

 

Profile

著者プロフィール
笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。中国滞在20年目。北京大学・清華大学両校で10年間教鞭をとった後、中国110都市396校で「日本語学習方法」をテーマに講演会を行う(日本語講演マラソン)。現在は浙江省杭州に住み、日本で就職を希望する世界中の大学生や日本語スキル向上を目指す日本語教師向けにオンライン授業を行っている。目指すは「桃李満天下」。

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