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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ドラゴンボールにシティポップ、遠いようで近い日本とブラジル

ヴェイパーウェイヴ風の色合いに加工された東京の街並み(photo by iStock)

外国で生きていると、時に母国の旗を背負って生きるような感覚に陥る。
歩いているだけでジロジロ見られ、「ありがとー」とか「ニーハオ!」と言われたりすることだってある。
インターネット社会になった今でも、異国の人に対するステレオタイプというのは人々の頭にこびりついたままだ。

私が辿り着いたサンパウロの街角で野次を飛ばされることが殆どないのは日系ブラジル人のおかげである。
1908年6月18日、最初の日本人移民がサントスの港に降り立った。
この日は「移民の日」とされ、今日ブラジルは世界で最も日系人の人口が多い国である。 特にサンパウロには多くの日系人が暮らしているため、街を歩く私は日系人の一人に見えるだろう。
しかし、ブラジル人たちは私が日本生まれの日本人だとわかると必ず「ドラゴンボールが好きだ。」とか「日本食が大好きなんだ。焼きそばとホットロールが特にお気に入りだよ!日本人は毎日魚を食べるんだよね?」と言われたりする。
ちなみにブラジルの焼きそばはソースが甘い中華風焼きそばで、ホットロールとはサーモンとクリームチーズの巻き寿司に衣をつけて揚げたものである。これは絶対に日本の寿司ではない。いつも反応に困ってしまう。

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ブラジルでは定番の寿司ホットロール、(photo by iStock)

寿司の話は長くなりそうなので次回に詳しく書くとして、南米におけるドラゴンボールの知名度には本当に驚かされる。
ドラゴンボールを知らないという人を見つけるほうが難しいし、根っからの大ファンでなくても、オレンジ色に亀印のTシャツを持っていたりするから不思議だ。 それ程、日本のアニメというのはブラジルの社会に密着している。

|きっかけはギリシア神話をモチーフにした日本アニメだった

ブラジルは国産アニメにあまり力を入れておらず、代表的な作品Turma da Mônica*(モニカと仲間たち)以外だと北アメリカからやってきた所謂アメコミが放映されていた。
1985年に週刊少年ジャンプで連載を開始、翌年アニメ化し、1988年にフランスで人気になった日本のアニメ『聖闘士星矢』の著作権を購入したブラジルのおもちゃ会社は、同アニメの人形のコマーシャルを流すことを約束に、破産寸前だったテレビ局にアニメ放送権を提供。94年からブラジル国内で放送された。
すると、愛らしいモニカや北アメリカのスーパーヒーローの描写とはまた違った日本のアニメは子供たちに大きなインパクトを与え、放送は人気を博し人形も飛ぶように売れた。
これがブラジルにおける日本アニメ人気の先駆けとなり、他の放送局も注目しはじめ、1996年にはドラゴンボール、続いてセーラームーン、ポケットモンスター、NARUTO、ワンピースなど多くの人気アニメがブラジルの民間放送で流れている。
日本のアニメがブラジルの子供たちの重要な楽しみの一つとなったのは、ブラジルの義務教育制度が午前もしくは午後だけ学校に通う二部制で、自宅で過ごす時間が多いという社会的な背景も関係しているようだ。

その他、デスノートやエヴァンゲリオンなども人気となり、幅広い年齢層がアニメを視聴するようになった。自宅でインターネットが当たり前のようになった今では、民放で放送されていないアンダーグラウンドなアニメを視聴することもできる。そういえば、音楽院時代にルームシェアしていた日系人の友人が、日本語からポルトガル語へのアニメ翻訳のアルバイトをしていたのを思い出した。ちなみに私は全くアニメがわからないため、初対面のブラジル人に質問されると困る。

*Truma da Mônica(モニカと仲間たち)は主人公の少女モニカとその仲間たちによる日常を描いたブラジルの人気アニメ。ブラジル以外でも放送されており、日本では本年声優育成講座SPOTとのコラボレーションによりCSにて放送が決定した

|ブラジルで通じる言葉「オタク」

ちなみにブラジルの若い世代には「オタク」という言葉も定着している。
「オタク」の定義は明確でないにもかかわらず、なぜか日本では悲しくも陰なイメージを持たれているオタク。
しかしブラジルでオタクはかなりイケている。 基本的にブラジルでのオタクは上記のようなアニメの大ファンで、そこから派生していくように日本文化を愛し、原宿風なファッションをオシャレに着こなし、ソーシャルメディアを使いこなす若い世代の憧れ的な象徴だったりする。
ちなみに日本で一般的にイメージされるタイプのオタクは、ブラジルでは「Nerd」(英語)と呼ばれる。
日本語がわからなくても、アニメ、音楽、マンガなどはポルトガル語訳がつけられており(もしくはポルトガル語版がある)、意見交換を行う大きなコミュニティーも存在する。サンパウロでは南米最大のアニメフェスティバル「Anime Friends」も開催されており、過去に最高12万人動員を記録している。

|ペルー人の友人が竹内まりやの曲を熱唱?!

アニメファンの延長線の先にある「日本文化好き」というパターンは、ブラジルだけでなく世界各地で起こっている。
彼らはKawaii文化を好み、意味がわからなくても漢字やひらがなが書いてあるものに愛しさを感じ(たまに酷い日本語が書かれたTシャツを着ている人もいる)、日本の音楽に興味を示す。

彼らがこぞってハマっているのはシティポップと呼ばれる日本の70年代後半から80年代に流行した音楽たちだ。
それが発覚したのはブラジル在住のペルー人とカラオケに行った時のことだった。
彼が日本の歌を歌うと言うので、どうぜドラゴンボールだろうと思っていたら、まさかの竹内まりやの「プラスティック・ラブ」で、全く日本語が話せないはずなのに完ぺきに歌い上げた。
歌っている内容はわからないけれど、どこか懐かしいような気分になるそうだ。

目が点になった私に、シティポップの流行について説明してくれた。 私は音楽家/研究者であるにもかかわらず、世間の流行とは逆をいっているのでこういったムーブメントを一切知らず、たまに恥ずかしくなる。
どうやらシティポップとは80年代の都会的なムードをもつ日本のポップスで、2010年頃から海外のコアな音楽ファンから注目を集め始めており、この「プラスティック・ラブ」により火が付いたそうだ。
近代的音楽ヴェイパーウェイヴの影響を受けたデザインやアニメーションをつけて個人的にアップロードされては著作権法により消去されながらも「プラスティック・ラブ」だけでも6000万回以上再生されている。消去されたものや他バージョンも合わせたらこの何倍以上も聴かれているに違いない。
ストリーミング配信が一切なかったために常に違法アップロードされていたが、本年になってようやくSpotifyなどで解禁となった。
日本の楽曲をカバーして動画投稿していたインドネシアの歌手レイニッチによる松原みきの楽曲「真夜中のドア~Stay With Me~」も話題を呼び、非日本人が作成した"シティポッププレイリスト"が沢山存在する。

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ヴェイパーウェイヴの影響を受けたデザインはリバイバルシティポップのカバーとして使用される(Photo by iStock)

|なぜシティポップなのか

日本の高度経済成長、バブル真っただ中の東京のディスコと男女の恋模様に和製英語溢れる歌詞。
まさに時代を感じる音楽とも思えるが、これらを十分に理解して聴いている人は殆どいないだろう。
そもそも世界の若いリスナーたちは東京どころかこの時代に生まれていない。
それでもなぜかシティポップにメランコリックを感じるのはなぜだろう。

結論からいうと、このリバイバルの明確な理由はわからない。
しかし、筆者が友人の話をきく限り、インターネットの普及により海外の音楽にアクセスするチャンスが増え、過去の作品を発掘する楽しさや、たった一つの投稿がアルゴリズムによって爆発的なヒットのきっかけになったりしているようだ。
このシティポップ人気の理由は、アニメを通した日本文化への親近感や、電子的サウンドによる大都会東京への憧れ(今となっては少し一昔前のようなシンセサイザーの音も、東京の近未来的なイメージを植え付けている)、そして日本独特の抒情的メロディが欧米的なビートによってモダン化されてより若い世代に受け入れやすくなっていること等が考えられる。

こういったリバイバルは音楽だけではない。
女性の眉のトレンドを観察してもらえば一目瞭然だろう。ガレージの段ボール箱から自分の母親が若い頃に着ていた服を漁ることや、あたかもインスタントカメラで撮っている風のフィルターを利用することは、ここ数年常に注目を集めている。

人間は自分が実際に生きた事がない空間に対して親近感や懐かしさを感じるから不思議である。
もしかしたら日本人がボサノヴァを好きになるのも同じような感覚なのかもしれない。
日本とブラジルは遠いようで実は近いように感じる。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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