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日々のSDGsと多様性 - ポートランド・コーディネーター手帳

山本彌生|アメリカ

教育からできること、ポートランド地域の格差と多様性への問いかけ

クラーク・カレッジの学長であるカリン・エドワーズ氏は、ニューヨークのブロンクス出身。教育こそが自分の将来の道を開いてくれると信じ、東海岸の大学で教育学の博士号を取得。Photo | President Karin Edwards, Clark College

| 世の中の『違い』を追いかけたら、違う風景が見えてきた

コロナ禍での新学期が始まりました。ここアメリカでは、9月が新学年。いまだに深く根差す不安と緊張を抱えたながらも、友達に会える喜びと共に学校に足を運ぶ姿が、町のいたる所で見られます。

昨年一年間は、感染対策により小学生から大学生までがオンラインで授業を受ける「ハイブリッド授業*」での勉強を強いられていたアメリカ。この新学期からは、登校するかオンラインで授業を受けるかを選択できるようになりました。

とはいえ、ほとんどの学生が実際に足を運ぶ『リアルな学生生活』を選んでいる様子。ちなみに、キャンパスでのリアル授業を受けたい大学生の場合、2回のワクチン接種が義務付けられています。

〚* 教室での授業を動画で生配信し、生徒はその様子をPCやタブレット端末で視聴学習する方法。実際に一番大変だったのは、経験したことがない授業を用意する先生でした。寝ずの準備で精神的に辛い思いをしていた方がほとんど。そして、自宅での勉強をみる保護者にも、多くのストレスが掛かったのは万国共通。〛

在宅での一年間のタブレット学習によって、今より一層な問題となっているのが『教育格差』。家庭内の教育の環境や理解度の差が、コロナ前より広がっています。加えて、去年から今年にかけての人種差別問題から、さまざまなシーンで語られる『多様性』。

この二つが、新学期が始まったばかりのコロナ禍におけるアメリカの教育。すなわち、社会の根っこのキーワードになっていると考えている人が、最近とみに増えてきています。

そんな今、真摯にその部分を追究する人の姿から、なんらかの答えを導くヒントがありそうです。

カリンさんは、ポートランド近郊に立地するクラーク・カレッジの学長に、コロナ禍の2020年に就任しました。女性として、また有色人種として初の学長。白人中心の人口分布であるポートランド地域では、大きな話題になっています。前職のポートランド・コミュニティ・カレッジの校長からの栄達となります。

彼女の名が知れ渡ったもう一つの理由。それは長年、教育者として地域社会に貢献する役割を多く担っていたという点にあります。というのも、校長を務めていたカスケード・キャンパスはポートランドの北に位置し、オレゴン州におけるアフリカ系アメリカ人の大半が住んでいた立地だったからです。

この地域の特徴は、ジェントリフィケーション問題* に最も悩まされてきた土地柄。ポートランドにおける過去20年間の開発によって、長年住みついた多くの人々は家やビジネスを失っていきました。それにとって代わり、新しい高額賃貸マンション、オフィスビル、レストランが『雨後の竹の子』のように現れたのです。2021年の現時点では、建築ラッシュはだいぶ落ち着いてきていますが、それでも現在進行中の地域が若干あるのが現状です。

このような地域の歴史に敬意を払いつつ、より良い未来のために教育者であるカリンさんが行ったこと。それは、町の公共機関と積極的に関わり、企業、政府機関、コミュニティのリーダーと協力を基とした地域の教育の助長でした。

ビジネス協会での活動から知り合い、個人的なお付き合いに至ったカリンさんと私。教育を通して、格差をなくす取り組みに真摯に取り組む、穏やかで凛とした彼女の姿を追います。

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ポートランド・コミュニティ・カレッジのカスケード・キャンパスの校長を6年間務めた後、現クラーク・カレッジへ。静かに一つ一つの言葉を丁寧に選びながら話す、その語り口が魅力の一つ。Photo | President Karin Edwards, Clark College

| コロナ禍と教育と公平性のレンズ

クラーク・カレッジを率いる初の黒人女性であるカリンさん。実は、過去の働きにおいては、長年4年制大学の勤務を続けていました。

しかし、高等教育に携わっていけばいくほど、多くの疑問を持ち始めます。ニューヨーク市ブロンクス出身ということもあり、文化背景と教育格差を肌で感じ育ってきた環境。そんな生家の生活環境から、地域に根差す2年制短大のコミュニティ・カレッジ教育の大切さを痛感し続けていったと言います。

というのも、中流下層から低所得層、移民や有色人種の学生にとって、高等教育への最初の入り口となる場所 。それが2年制短大だからです。

短大といっても、どちらかと言えば日本の専門学校に近い学習内容。専門学科を2年間学び、卒業するというコースになっています。また生徒によっては、その2年制短大から4年制大学への編入をして卒業をする。このような形で4年制大を卒業するというのも、アメリカではよく行われる進学のパターンです。

この編入コースを選ぶ利点。それは、公立の地元コミュニティー・カレッジに2年間通う事で、学費を抑えることが出来るところです。この場合、その生徒の在籍する短大レベルと生徒の偏差値や成績によって、入学できる4年生大学が決まります。

さて、ではなぜカリンさんは、教育において人種的多様性と公平性にこだわるのでしょうか。それは、有色人種や中流下層以下に明らかな教育格差があるからだと話します。

「特に、多様な人種と収入が不安定な家庭に育った子供たち。彼らにとって、短大や大学という高等教育は、『公平により近い将来』を手に入れることのできる貴重なツールだからです。

そのためにも、まずは、より多くの人に質の高い教育を受ける機会を提供すること。そしてそれは、必然的に地域の豊かな労働力へと繋がっています。そのためには、地域の公的機関や教育機関が、市民と学生のための具体的な良案を惜しまずに務めること。これが、最も重要なポイントです。」

移住者、有色人種の学生、収入が不安定な生い立ち。歴史的や経済的に恵まれていない人々のために、存在する公平性の格差を解消する必要性を痛感していったカリンさん。現在では必要な公平性、採用・雇用、授業カリキュラム、学生サービスなどの方針とプログラムの改善を行っています。

また、これらの計画の中には、全職員が年に1回「権力、特権、不公平」のトレーニングコースを受講することが含まれています。加えて、多様性、公平性・包摂性に焦点を当てた1年間の専門的な開発プログラムも導入しました。

「学生がより良い教育を受けること。そして、中途退学する事なく学業を終えること。そのためには、出来る限り、彼らの抱える格差をまずは想像、想定し具体的に改新していかなければなりません。彼らが置かれている現実。これを地域自治体と教育関係者は、より真剣に考えなくてはならない。そんな時代なのです。」

まずは一つの具体策として、去年から引き続き、在短大生のために食料配給所を設置。また、学習に必要とする生徒のために、何百台ものノートパソコンとWi-Fiルーターの貸し出しもしています。

とは言え、コロナ禍により、多くの教育機関自体も大きなダメージを受けています。そんな今のアメリカの大学の悩み。そして、学費ローン事情とはどのようなものなのでしょうか...。

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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